こんにちは。ボルデックス営業部の中崎です。
ここ数年、ブロックチェーンという技術が少しずつ社会の中に広がってきています。もともとは仮想通貨の仕組みとして注目されていましたが、現在ではアートや音楽、チケット、契約書、会員証など、さまざまな分野で実際の活用が進み始めています。
その流れの中で、NFT(Non-Fungible Token、以下NFT)という言葉を耳にする機会も増えてきました。NFTは、デジタルデータに“唯一無二”の性質を持たせ、「誰が所有しているのか」「それが本物であるのか」を後から確認できる仕組みです。これまでコピーが前提だったデジタルデータの扱い方が、少しずつ変わり始めています。
こうした変化は、アートやエンターテインメントに限らず、デジタル契約や保証、身分証明など、「信頼できる証明」が求められる分野にも広がっています。社会全体として、「証明をどのようにデジタルで扱うか」が問われる段階に入ってきていると言えるでしょう。
そして今回取り上げる卒業証書というテーマも、教育分野におけるその延長線上にあります。卒業証書は、進学や就職といった人生の節目で必要となる重要な証明です。その扱い方を見直そうと、ブロックチェーンやNFTの仕組みを活用する動きが、少しずつ広がり始めています。「NFT卒業証書」と聞くと、技術的に難しそうだと感じ、自分たちの学校にはまだ早いのではないかと思われる方も少なくないかもしれません。関心はあっても、具体的に何から考えればよいのか分からない、という声もよく耳にします。
そこで今回は、こうした状況を踏まえたうえで、教育機関がNFT卒業証書の導入を考えるときに、まず知っておきたい背景や考え方、検討の全体像について整理していきます。技術の細かな話に入る前に、「いま何が起きていて、なぜ検討する段階に来ているのか」を共有するところから始めていきたいと思います。
目次
- NFTとは?なぜ卒業証書に活かされる?
- 現状の運用とその小さな障壁
- 社会の流れと教育の役割
- すでに始まっている導入事例
- NFTを導入することのメリット
- 教育機関として考えておきたいこと
- これからの展望
▫️NFTとは?なぜ卒業証書に活かされる?
NFTとは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略で、ブロックチェーン上でデータの唯一性を担保する仕組みです。最近では専門用語として聞く機会も増えましたが、要点はそれほど難しくありません。
これまでのデジタルデータは、コピーや加工が簡単で、「どれが本物か」を明確に示すことが難しいものでした。PDFの卒業証書を例にすると、見た目は同じでも、それが本当に正規のものかどうかを第三者が判断するのは簡単ではありません。
NFTは、そうした前提を少しずつ変えています。「これは誰が持っているデータなのか」「発行元はどこか」「改ざんされていないか」といった情報を、後からでも確認できる状態をつくることができます。デジタルでありながら、“確かに本人のものだ”と言える状態を実現できるようになってきているのです。
卒業証書とNFTの相性が良いと言われるのは、この性質によるものです。卒業証書はもともと、「一人に一つしかない」「真正性が何より重要」という特徴を持っています。その特徴を、デジタルの世界でも自然に再現できる手段として、NFTが使われ始めている、というのが実際のところです。
例えば、留学や海外大学院への出願で卒業証書が必要になった場合、これまでは紙を郵送したり、認証手続きを踏んだりと、どうしても時間がかかっていました。現在では、リンクを共有するだけで、その場で真偽を確認できる仕組みも現実になりつつあります。
なお、実際の運用ではNFT単体で完結するわけではありません。NFTは卒業証書データの「所有権の証明や移転」を担い、VC(Verifiable Credentials、以下VC)は、そこに記載されている学歴情報そのものの真正性を担保します。この二つを組み合わせることで、実用的な卒業証書のデジタル証明が成り立っています。
▫️現状の運用とその小さな障壁
現在、多くの教育機関では、卒業証書を紙で発行し、一部ではPDFでの提供も併用されています。この運用は長年にわたって使われてきたものであり、社会的にも広く受け入れられてきました。実際、これまで大きな問題なく機能してきた仕組みだと言えるでしょう。
一方で、実際の利用場面を一つひとつ思い浮かべてみると、いくつかの「小さな引っかかり」が見えてきます。どれも致命的な問題ではありませんが、使う場面が増えるほど、少しずつ負担として意識されるようになってきています。以下に三つ例を挙げます。
▫️卒業後に必要になるタイミング
就職活動や資格申請、留学など、人生の節目で卒業証書を求められる場面は少なくありません。その際、紙の卒業証書であれば再発行や郵送の手間がかかり、PDFの場合でも、どこに保存したか分からなくなり、探し出すのに時間がかかったりすることがあります。
・学歴詐称リスクへの備え
日本国内では頻繁に起きているわけではありませんが、世界的には「ディプロマミル問題」と呼ばれる偽造学位証明の事例が知られています。証明を受け取る側が「本当に正しいものか」を確認したいと考える場面が増えている以上、教育機関としても一定の対応を意識せざるを得ない状況になってきています。
▫️事務局の負担
最後が教育機関の事務局側の負担です。証明書の発行や問い合わせ対応は人手に依存していることが多く、通常は問題なく回っていても、卒業シーズンや繁忙期には業務が集中しがちです。もう少し効率化できれば、現場の負担を軽減できる余地は残されています。
実際に、とある日本の大学を卒業した方のケースでは、海外大学院への出願にあたり卒業証書が必要になりました。紙の証書を取り寄せるには数週間かかる状況で、申請の締め切りは目前でした。結果的には間に合ったものの、「証明書の手配に多くの時間を割かれ、本来注力すべき研究計画書に十分集中できなかった」と振り返っています。こうした経験は、決して珍しいものではなく、誰にとっても起こり得る話です。
ここまで見てきたように、現在の仕組み自体が「悪い」というわけではありません。ただ、社会の変化や利用シーンの広がりに伴って、これまで表に出にくかった小さな負担が、少しずつ見えるようになってきているのも事実です。こうした点をどう捉え、どのように改善していくかは、学生にとっても教育機関にとっても、これから考えていくべきテーマだと言えるでしょう。
▫️社会の流れと教育の役割

一方で、社会全体に目を向けると、デジタル化やAIの普及が急速に進んでいることは、皆さまも実感されていると思います。これまで紙や対面で行われてきた手続きが、オンラインで完結するのが当たり前になりつつあります。
証明の分野も同様です。就職活動や留学申請はオンライン化が進み、紙の書類を郵送する機会は確実に減っています。こうした流れの中で、VCといった国際標準の整備も進み、日本でも実証や検討が続けられています。他の業界では、すでにチケットや保証書、会員証などがブロックチェーンを使った証明に移行し始めています。教育分野がこの流れに加わるのは、決して不自然なことではありません。
将来的には、証明の価値は「持っているかどうか」だけでなく、「どれだけスムーズに取得・提示・検証できるか」という体験そのもので評価されるようになるでしょう。教育機関には、その中で「学びの証明」をどう提供していくかが問われています。
▫️すでに始まっている導入事例
次に事例を挙げてみましょう。
例えば、すでに国内外では、NFTやVCを活用した卒業証書の取り組みが始まっています。
・米国MIT(マサチューセッツ工科大学)のケース
2017年から「Blockcerts」を導入し、卒業生が証明を自己保有し、第三者がURLで真偽を確認可能に。現在では数千人単位の卒業生が利用しています。
・日本(千葉工業大学)のケース
2021年からデジタル卒業証明の発行実証を開始。国内での先行事例として注目されています。
・欧州及びアジアにおけるケース
数万人規模の卒業生を対象にパイロット導入を進める大学もあり、国際的な提出・利用を前提とした動きが拡大しています。
これらの事例に共通しているのは、「学生が自分で証明を持ち、必要なときに提示できる」という考え方です。これは、教育の証明のあり方そのものが、少しずつ変わり始めていることを示しています。
▫️NFTを導入することのメリット
私自身、教育機関の方々と話をする中で、NFT卒業証書には大きく三つのメリットがあると感じています。一つ目は安心です。改ざんができない仕組みによって信頼性が担保され、受け取る側も即座に真偽を確認できます。二つ目は効率です。発行や照合、再取得がオンラインで完結することで、事務局の負担を軽減できます。三つ目は拡張性です。国際標準に準拠することで、海外提出や将来的な学習履歴・スキル証明との連携も視野に入ってきます。これらは単なる業務効率化にとどまらず、教育証明の価値そのものを高める要素だと捉えています。
▫️導入を考えるうえで見えてきているポイント

卒業証書のデジタル化は、今後数年の間に、さらに活用が広がっていくと考えられます。すでに海外を中心に実証や実運用が進んでいることを踏まえると、NFT卒業証書も一部の先進的な事例にとどまらず、徐々に一般的な選択肢として認識されていく可能性があります。
もっとも、導入にあたっては、最初から全学規模で一気に進める必要はありません。学科単位や短期講習、特定のプログラムなど、比較的小さな範囲から試していくことが、現実的な進め方だと考えられます。段階的に導入することで、実際の運用の中で見えてくる課題を一つずつ整理しながら、自校に合った形へと最適化していくことが可能になります。
また、将来的には、NFT卒業証書は単体の取り組みにとどまらず、履修証明やスキル認定、課外活動の記録などを含めた「包括的な学習証明」へと発展していく可能性もあります。学生一人ひとりの学びの履歴を、より立体的に、かつ信頼性の高い形で示せるようになることは、学生のキャリア形成にとっても大きな意味を持ちます。同時に、教育機関にとっては、教育の質や取り組みを可視化する手段となり、ブランド価値の向上にもつながっていくでしょう。
さらに、この仕組みは、世界中の学生にとって「公平なチャンス」を広げる可能性も秘めています。紙の証書を郵送することが難しい地域の学生や、国境を越えて学ぶ留学生にとって、即時に、かつ信頼できる形で証明を提示できることは、大きな強みになります。証明へのアクセスのしやすさが、学びや進学の機会そのものを広げていくことにもつながっていくはずです。
▫️卒業証書を取り巻く今後の変化
技術の進歩が速い現代においては、数年後にはNFT卒業証書が特別なものではなく、当たり前の選択肢として受け入れられている可能性も十分に考えられます。そのような未来を見据えたとき、いまの段階で「自校ではどのような形で取り入れる余地があるのか」「どのような準備が必要になりそうか」を考えておくことは、決して無駄にはならないでしょう。
今後、技術の進化や社会の変化がさらに進んでいく中で、卒業証書のあり方そのものが見直される時代が来ることも想定されます。そうした流れを前提に、今から少しずつでも情報を整理し、考え始めておくことは、教育機関が学生の未来を支える責任を果たしていくうえで、意味のある一歩だと言えるかと思います。技術が普及し始め、問題や懸念が出始めている、まさに今、そのことを前向きに考え始める時期に来ているのかもしれません。
